大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和38年(う)374号 判決

被告人 西森幸男 外一名

主文

被告人大家皓輔に対する原判決を破棄する。

被告人大家皓輔を原判示第一の(一)及び(二)の罪につき懲役二年に、原判示第五の罪につき懲役一年に処する。

押収してある日本刀一振(昭和三八年押第一六八号の三)を被告人大家皓輔から没収する。

原審における訴訟費用のうち、証人大崎土佐太郎、同辻橋一男、同金鐘吉、同清水忠、同武内義則、同前田和夫、同井上哲夫、に各支給した分及びその余の費用の六分の三を被告人大家皓輔の負担とする。

被告人西森幸男の本件控訴を棄却する。

理由

被告人大家皓輔、同西森幸男の各本件控訴の趣意は、記録に添付する弁護人中平博文、同中平博提出の各控訴趣意書に記載のとおりであるから、いずれもここにこれを引用する。

被告人大家皓輔の控訴趣意。

事実誤認の論旨について。

所論は、被告人大家に対する原判示第五の傷害の事実につき、被告人大家は同判示の如く相被告人西森幸男が前川芳光等に対し暴力をもつて報復しようと意図していることを知つて、これに加担し、被告人大家の同僚である中井組組員弘瀬岩雄等数名の者及び右西森幸男に協力するために集つて来た前田敏雄等数名の者と互に意思を相通じて、右前川芳光等に暴力を加えることを共謀した事実はなく、また同判示の如く右前川芳光に対し、相被告人西森幸男及び弘瀬岩男、前田敏雄等が同判示の如き暴行を加えて傷害を負わせたことにつき、被告人大家が右の者等と共同して実行した事実もない。右犯行当夜被告人大家が同僚の中井組組員弘瀬岩男等数名の者とともに、相被告人西森幸男からの連絡により、同人のもとに参集したうえ、同人から前川芳光等との間にもめごとがあつた旨を聞知したが、その後被告人大家としては右前川芳光等と単に話合をつけるために同人を探しているものと考えて相被告人西森幸男等と行動を共にしていただけであつて、同人等が右前川芳光に対して暴力を加えて報復しようと意図していることは知らなかつたものであり、また同人等が右前川芳光に暴行に及んだ際には被告人大家はその場に居合せなかつたものである。従つて被告人大家には何等刑責を問われるべき所為がないのにかかわらず同被告人に対し右前川芳光に対する傷害罪の共同正犯者としての刑責を認定した原判決は明らかに事実を誤認しているというのである。

よつて、記録を検討して見るのに、原判決挙示の各証拠を綜合すれば、原判示事実は優に肯認される。即ち右各証拠によれば、被告人大家は、所謂暴力組織団である中井組組員であつたが、昭和三七年三月三一日午後九時頃高知市山田町の右中井組事務所で同組組員近沢泉から、同組組員の幹部である西森幸男が香美郡土佐山田町から、もめごとがあつたので同組組員等に土佐山田町まで来て貰いたい旨の電話連絡があつたことを聞き、直ちに同事務所に参集していた同組組員弘瀬岩男、近沢泉等数名の者とともに土佐山田町に赴いたこと、同町中町白樺喫茶店で被告人大家は相被告人西森幸男から同人が当夜同町内の映画館で右中井組とは系列を異にする暴力組織団親友会に属する中西淳、前川芳光及び同人等の知人の池上清一との間にいさかいを生じた事情を聞き、同人等から右西森が恥をかかされたと憤慨し、同人等に暴力を加えて報復することを意図してその行方を探していることを知つたこと、同店には右西森と親交のある同町内の堀川富喜世の輩下の前田敏雄等数名の者も来集していて、右中西等を探していたこと、被告人大家等高知市から馳けつけた数名の中井組組員及び右前田敏雄等数名の者は、いずれも右西森幸男とともに、互に協力して右前川芳光等を探し出し、暴力をもつて同人等に報復しようと考え、右白樺喫茶店を出発して右前川芳光等を探し求めたこと、そして翌四月一日午前零時頃右白樺喫茶店に戻つて来たところ、右前川芳光及び中西淳に出合つたので、相被告人西森幸男、弘瀬岩男等中井組組員数名の者及び右前田敏雄等数名の者全員が右前川芳光、中西淳の周辺に押し寄せたうえ、原判示の如く前川芳光に暴力を加えて傷害を負わせたこと、その際被告人大家も行動をともにし、その場に居合せていたことが、それぞれ認められる。右各認定に照らせば、原判示の如く被告人大家が右前川芳光に対する傷害の所為につき共同正犯者としての刑責を負うべきものであることは明らかであるといわざるを得ない。原審において取調べた全証拠を検討するも、右認定を動かすに足りる証拠は存しない。

然らば、原判決には所論の如き事実誤認は存しないというべきであるから、論旨は理由がない。

そこで、次に量刑不当の論旨について判断する前に、職権をもつて原判決を調査するに、原判決においては被告人大家皓輔の犯罪事実として原判示第一の(一)、(二)及び第五の各事実を認定したうえ、原判決挙示の各該当法条を適用して所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右各罪が刑法第四五条前段の併合罪に該るものとして同法第四七条、第一〇条を適用して被告人を懲役三年に処する旨の言渡しをしている。しかし当審において取調べた検察事務官作成の被告人に対する昭和三八年一一月一五日付前科調書によれば、被告人は昭和三六年五月三一日高知簡易裁判所において道路交通法違反罪により罰金一万二千円に処せられ、同裁判は同年九月二六日に確定したことが認められ、被告人大家の原判示第一の(一)及び(二)の各罪は右裁判確定前に犯されたもので右確定裁判を経た罪と刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるものであるから、同法第五〇条により右各罪について処断し、右確定裁判後に犯された原判示第五の罪とは別個に処断すべきものであるといわなければならない。然らば、原判決は併合罪の規定の適用を誤つたものというべく、右法令の適用の誤りが判決に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れないものである。従つて本件控訴趣意の量刑不当の論旨の当否について判断するまでもなく、刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決する。

原判決挙示の各証拠によつて原判決どおりの罪となるべき事実を認定し、右各認定事実に原判示各法条の外刑法第四五条後段、第四七条但書、第五〇条を適用し、諸般の情状を考慮して、被告人大家皓輔を原判示第一の(一)及び(二)の罪につき懲役二年に、同判示第五の罪につき懲役一年にそれぞれ処することとし、没収につき同法第一九条第一項第二号、第二項を、訴訟費用につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

被告人西森幸男の控訴趣意。

事実誤認の論旨について。

所論は、先ず、被告人西森に対する原判示第一の(一)の傷害幇助の事実につき、原判示の如く被告人西森が、当時の住居である高知市北百石町一丁目一六四番地南海荘アパート内の居室に訪れてきた相被告人大家の依頼により、同人に附添つて同市愛宕町二丁目一〇八番地遊戯場四国会館前路上に至り、その後も同会館附近路上に居合せていたのは、被告人大家が同会館北方路上等で凝地英に傷害を加えた犯行を助勢して容易ならしめる意思でこれを幇助するために行動したものではなく、被告人西森としては、相被告人大家が右の如き犯行に及ぶかも知れないことを危惧して、むしろこれを制止しようとする意図のもとに相被告人大家と同行したものであるから、被告人西森には何等刑責を問われるべき所為は存しないのにかかわらず、原判決はこれを看過して、明らかに事実を誤認しているというのである。

よつて記録を検討して見るのに、原判決挙示の各証拠によれば、被告人西森及び相被告人大家は、いずれも当時所謂暴力組織団である中井組の組員であり、しかも被告人西森は同組員の幹部であつて、右大家に対しては兄貴分に当る関係にあつたこと、右大家が当時被告人西森が居住していた右南海荘アパート内の居室に訪れ、右凝地英に右四国会館で軽蔑されたので、同人に報復を加えに行くから、同行して貰いたい旨の依頼を受け暴力沙汰になることを察知しながら、これを承諾したうえ、各自被告人西森所有の日本刀をそれぞれ携えて随伴して来た刈谷耕三及び刈谷昭南の両名とともに、右大家の乗車してきた自動車に同乗して右四国会館前路上に至つたこと、被告人西森が右の如く右大家に附添つて行つたのは、弟分に当る同人の依頼を受けて同人を助勢する意図のもとに行動したものであり、右大家としても兄貴分である被告人西森が同行してくれたことにより、同人の後楯があるものとの安心感を抱いたこと、そして右四国会館に至るや右大家が同会館内に居つた凝地英を連れ出したうえ、逃げ出した同人を右刈谷耕三、刈谷昭南の両名とともに追跡して、原判示の如き傷害を加える犯行に及んだが、その間被告人西森は右四国会館附近路上で待機していたことがそれぞれ認められるのであつて、右認定に照らして明らかな如く、被告人西森の所為に対し、傷害幇助の刑責を認定した原判決は相当であつて、所論の如き事実誤認が存するものとは認められない。原審において取調べた全証拠を検討するも、右認定を動かすに足りる証拠は存しない。論旨は理由がない。

次に、所論は原判示第一の(二)の銃砲刀剣類等所持取締法違反の事実について、被告人西森は原判示の如く刈谷耕三、刈谷昭南の両名が各自被告人西森所有の日本刀各一振をそれぞれ不法に携帯していたことにつき、これを幇助する犯意を有していたものでもなく、また被告人西森は原判示の如く右刈谷耕三、刈谷昭南が右日本刀を不法に携帯するのを単に黙認していたというだけに過ぎないものであつて、その際被告人西森に右刈谷等の右日本刀の不法携帯を阻止すべき法律上の義務があつたものとは解せられないから、右の如き黙認という不作為につき、刑責を問われるべきではないのにかかわらず、これを看過した原判決には、明らかに事実誤認の違法があるというのである。しかし原判決挙示の各証拠によれば、刈谷耕三、刈谷昭南は被告人西森のもとに寄宿し、所謂暴力組織団である中井組組員の幹部である被告人西森の輩下と目される立場にあつたものであること、右刈谷耕三、刈谷昭南が携帯した各日本刀は、いずれも被告人西森の所有物であつて、登録済のものであること、そして同人等が右日本刀を携帯したのは、前述の如く相被告人大家が凝地英に対し暴力を加えて報復することを察知しながら、これを助勢する意図のもとに被告人西森が右大家と同行することとなつた際、右暴力沙汰に及んだ場合の用意として右刈谷耕三等が携帯して来たものであり、被告人西森もその事情を了知しながら、これを容認していたものであることがそれぞれ認められるのであつて、右各認定に照らせば、被告人西森が敢えて右刈谷耕三等が右日本刀を不法に携帯することを阻止しようとしなかつたのは、同人等の右犯行を容易ならしめる意図に因るものであつたと認めるのが相当である。そして、およそ右日本刀等の刀剣類の所持及び携帯等について銃砲刀剣類等所持取締法が種々の規制を加えているのは、その危害予防上の必要に基くものであつて、同法第一〇条、第二一条、第三二条第一号により、登録済の日本刀の携帯についても、正当な理由がある場合以外には、その携帯を禁ずるとともに、その違反に対しては刑罰を科することとしているのも、右の趣旨に因るものであること、また同法第一四条、第三条第一項第四号によれば登録される日本刀は美術品として価値のある刀剣類であり、登録済の刀剣類については例外的にその所持が許される旨規定されていることに照らせば、刀剣類の所持を許されている者につき、その所持及び携帯について危害予防の法律上の義務が要請されているものと解すべきである。従つて、前記認定の如く被告人西森は、その所有に係る本件各日本刀を刈谷耕三、刈谷昭南の両名が各自携帯し、しかもそれが暴力沙汰に及んだ場合には同人等が使用する目的のもとに携帯しているものであることを察知していたのであるから、当然その携帯を阻止すべき法律上の義務を有していたものと認めるのが相当である。従つて被告人西森の所為は刈谷耕三、刈谷昭南の右日本刀の不法携帯の犯行を認識しながら、これを防止すべき法律上の義務に違背し、自己の不作為によつてその犯行を容易ならしめたものであつて、不作為に因る右犯行の幇助として、その刑責を問われるべきものであり、これと同一の見解に基く原判決の認定は正当であつて、所論の如き事実誤認、法令適用の誤は存しない。論旨は理由がない。

量刑不当の論旨について。

所論に鑑み、記録を検討するに、本件各犯行の罪質、動機、態様、右犯行は暴力組織団員としての被告人西森の所為に因るものであること、累犯前科等の前歴その他記録に現われた諸般の事情を考慮すると、原判決の量刑は相当であつて、重きに失するものとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 東民夫 梨岡輝彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例